【ネタバレあり】『プロジェクト・ヘイル・メアリー』感想レビュー:一気読み必至のSF大作

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「プロジェクト・ヘイル・メアリー」は、SF小説でありながら、ページをめくる手が止まらない読みやすさと、圧倒的なストーリー展開で多くの読者を魅了してきた作品です。

この記事では、純文学も読むタイプの読書好きの視点から、
本作の文体や読み心地、主人公の造形、ストーリーについて率直な感想をまとめました。

まだ読んでいない方がいたら、この先は読まずに本を手に取ってみてください。

この小説には、この記事のようなネタバレを見てしまうことによって、大きく失われる体験があります。

本当に最高なので読んでほしい…!

私はKindleで読みました。今まで読んだ小説の中でも、かなり上位に入る作品です。

目次

小説『プロジェクト・ヘイル・メアリー』とは?あらすじと特徴を紹介【ネタバレなし】

ここを読んでいる方なら知っていると思いますが、迷い込んで来られた方のためにネタバレ無しで簡単に説明します。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、アンディ・ウィアによる長編SF小説です。
日本では2021年に早川書房から邦訳が出版され、世界的にもベストセラーとなった話題作です。

物語の主人公は、目覚めたときに自分がどこにいるのか、なぜここにいるのか分からない――という状況から物語が始まります。
主人公とともに「なぜ自分がここにいるのか」「何をしなければならないのか」を少しずつ解き明かしていく感覚が味わえるのも本作の大きな魅力です。

著者のアンディ・ウィアは、『火星の人』(映画『オデッセイ』の原作)でも知られる作家で、科学的な裏付けやリアリティのある設定、そしてユーモアあふれる語り口に定評があります。
本作も、専門知識がなくても読みやすく、テンポの良いストーリー展開が多くの読者に支持されています。

SFが苦手な方や普段あまり小説を読まない方にもおすすめできる、エンターテインメント性の高い作品です。

この説明では極力大事な情報を排除しているので、これだけではあまり読む気になれないかもしれませんが、読んで損はしません。

この先はネタバレを大いに含みます。

海外SF小説とは思えない!読みやすい文体とテンポの魅力

まず最初に驚かされたのは、海外SF小説とは思えないほどの軽やかな文体でした。
ラノベのようだと言っても、私はライトノベルをあまり読んだことがないのですが、それでも「これはライトな作品だな〜」と読み始めてすぐに感じていました。

口語寄りで、難しい単語や専門用語が極力控えられています。
短文と適度な改行が多く、文章のテンポが非常によく、読んでいてストレスがありません。

一方で、重厚な読み応えを求める読者には物足りなさがあるかもしれません
私も最初は「軽すぎる」と感じ、なかなか物語に没入できませんでした。

しかし、ストーリーそのものは抜群に面白いので、不満を感じてもとにかく読み進めてほしいです。そんなことはどうでも良くなるので。

他の硬派なSF小説は、専門的な話も多くて「じっくり読んで理解しなければ…」と身構えてしまいがちですが、
本作は「小難しいことは読み飛ばしてもいいかも」と思えるような軽やかさがあります。
テンポ重視でどんどん読み進めていくと、作者が本当に読者に与えたいストーリー体験に自然と没頭できるようになっていると思います。

カゲノ

ゆっくりと時間をかけて読むよりも、本能のままに寝不足上等で読み進めた方が楽しいと思う。

読み進めていくうちに、確かにこれは文体が軽い必要がある、と思い始めました。

主人公の体験を我々読者が自分ごとのように読む必要があります。というか、その方が絶対にたのしいです。
この本では自分や他人の心情を深く考える必要はないので、ただ主人公視点で目の前のストーリーに乗っかっていれば幸せになれます。

カゲノ

しあわせ!しあわせ!しあわせ!

主人公が教師の理由とは?設定が物語に与える影響

本作の主人公が教師という設定に、
最初は「なぜ教師がこんなことに巻き込まれているのか?」というところに興味を持ちました。教師でなければならなかった理由が気になりましたが、
読み進めるうちに、この設定こそが物語全体の分かりやすさを生み出していることに気づきます。

主人公は生徒に分かりやすく科学や物理を教えてきた人物。だからこそ、物語内でも専門的な内容が自然なセリフや独白で読者に伝わります。

読者もそれをセリフとして読むと感覚的に理解しやすいですよね。

宇宙SF系は大体主人公の周りにいるのも専門家なので、セリフで素人向けに説明する機会は少ないです。
これを中学教師の主人公にすることで、分かりやすくなってるなと思いました。

また、本を読む体験よりも、ストーリーを追う体験を重視しているように感じました。
本をあまり読まない人がこれをきっかけに本好きになる可能性も感じさせます。
そういう敷居の低いSF小説なっているのではないでしょうか。

カゲノ

私個人としては、もう少し語彙豊富な本が好みですが、本作の分かりやすさにはかなり肯定的な印象を持ちました。
とにかく面白いから全てを許せる。

ストーリー展開の魅力とテンポ重視で読みやすい構成

本作を読んでいて一番気持ちよかったのは、欲しいものをすぐにもらえる構成でした。

例えば、エリディアンから模型を受け取ったあとに「かれらは会いたいといっている」で一巻の7章は終わっています。
私はここで次の章は過去編に飛ぶのではないかと覚悟しましたが、飛ばずに続きを書いてくれています。

こういうことがこの本ではよくあって、
章の最後にヒキがあって「続きが気になる!」という終わり方をしていると、普通は過去に飛んだり他の物語なら別の人の視点に飛んだりして、もったいぶるものじゃないですか。

だけど、この本はそういうことをしない。最大限に続きを読みたいと思わせて、そしてその続きを素直に読ませてくれるんです。

もったいぶられるのもそれはそれで良いのですが、そのストレスを感じると続きが気になってもったいぶりパートは適当に読んじゃうこともあると思います。
この小説のようにテンポよく読ませるものは特に。

この作品にはそういうことがないので、作者はきっと自分の技量にすごく自信があるんだろうなぁと思ったりしました。
そしてその通り、この小説には休みなんてない。ずっと集中していられます。

カゲノ

強いていえば序盤だけが休みと言えるかも。

必要以上にアクションシーンや命の危機を感じるような場面もありません。
大体こういうときは危険な状況に陥るんだろうな…とおもうところでも、特に何もなく普通に作業を終えたりする。
どこで危機が訪れるか予想ができませんでした。

ロッキーとの出会いと友情、泣けたシーン

私がこの物語で最も心を動かされたのは、もちろんロッキーとの出会いや友情です。

最初にトンネルで未知との遭遇を果たした場面―相手(ロッキー)を信用しきれずにハラハラさせられ、やがて心が通い始める。
ジャズハンドをやりだしたくらいから楽しくてたまらなくて、微笑ましすぎるその光景を想像してこの時点で少し泣きそうになってました。

ロッキーのことが好きすぎて、最後にヘイルメアリーの燃料が食われて計画の失敗が分かった場面(タウメーバがキセノナイトを通り抜けられるように進化していたことが発覚)でも、
主人公の生死がかかっているにも関わらず、私がすぐに考えたのはロッキーの船の心配でした。

カゲノ

主人公がとりあえずの問題を一旦解決した後にロッキーのことを考えるターンが来るので、私のようにそんなに早く考える必要は全くない……

主人公が焦って命がけで色々やってた時に、私はロッキーのことで頭がいっぱいだった。もったいないことした。

最後にロッキーを助けに行く場面よりも、ロッキーと仲良くなったあたりで私は一番泣いてました。
お別れしなくちゃいけないってことを考えると、辛くて辛くて。

正直にいうと、タウメーバがキセナイトを通り抜けられるようになってよかった、と思ってしまいました。
もう一度ロッキーに会う場面か、地球のみんなと再会してヒーローになる場面か、と言ったら私はロッキーに会う場面が見たかったので。

ロッキーが「なぜここにいる、質問?地球に戻る」と怒ったり、反面感動したりしてくれるかなと思っていたら、
迎えに来たことが分かった瞬間に純粋にめちゃくちゃ喜んでくれて本当に嬉しかった!

こういう時は、「何やってんだバカ!私のことはいいから早く戻れ!」と言うんじゃなくて、素直に喜んであげた方がいいよね。

それを言っても相手は戻らないんだから、助けに来てくれたことをただただ喜ぶ方が素敵なんだなと思いました。エリディアンは色々なことを教えてくれる。

そのあとは解決策を冷静に考えてくれてそれもロッキーらしかったし、やっぱこいつ好きだわ〜となるしかなかったです。

異文化コミュニケーションが描く感動のバディ関係

人間同士のバディものより熱くなれたのはなぜなのか、不思議でした。
なぜ人間同士の友情よりも、地球外生命体との友情の方が魅力的に感じたんでしょうか、私は。

色々考えたときに、
最初にお互いの言葉の意味を理解できるようになるまでの過程が”エモ”なのかなと思いました。

私はそこまでの二人のやりとりが一番好きです。
お互いにお互いのことを「知りたい」と強く強く思っていて、お互いを知るためなら睡眠も犠牲にするし、最大限に努力し自分の知識を総動員します。

言葉も表情も伝わらないけど、お互いが同じように興味津々だということは分かる。
こんなことって人間同士の、恋愛でも無いことです。

強い知的好奇心を有している者にとって、「お互いが強烈に相手のことを知りたがっている」ということだけ分かれば、それだけでもう深い共感ができるじゃないですか。
知りたいのはお互いのことで、そしてそのことで共感もしあえるってすごい関係だなと思います。

相手も自分のことが知りたいだろうから、これを見せてあげよう…と考えることができて、それは思いやりでもあるわけですから、もうその時点で友達って言ってもいい。

しかし、この友人関係には違いがありすぎます。
そもそも吸ってる空気すら違うし、文化がまったく違う。国が違うだけでも文化の違いを感じるのに、星が違うわけですからね。

その違いに驚き、自分ならそんな行動考えられないな、と思う。
でもその「考えられないな」を相手に押し付けずに、二人は受け入れていきます。
お互いに受け入れるし、皮肉を言いながらもちゃんとその違いを愛している様子を感じます。

ロッキーとグレースは真の友だと思うし、グレースは自ら地球を救うために自分を犠牲にする「いい人」とはなかったけれど、この異種間の違いを尊重できている時点で確実にいい人であるよなぁと思います。

私自身がこの二人の友情を見て感じたのは、
自分の体がとても素晴らしいもので私はすごく幸せだと思いました。

自分の目で綺麗な色を見て感動することができるし、大勢で食事を楽しむことができる。
人間がこの地球に住んでいること、自分が生まれたこと、もちろんそれも奇跡的でそこまではよく言われることだけど、
“この体の機能を持ってここで生きていることの奇跡”に感動したことは今までなかったです。

でもそれは人間だけが素晴らしいわけじゃなくて、エリディアンも素晴らしい。

5本の腕を使って器用な作業ができるし、計算も早いし記憶力が優れてるし、強い。
私たちが視覚で感動するように、彼らは聴覚で感動できるのだろうし。

吸える空気すら違っていても、それぞれが素晴らしいよな、と思いました。

カゲノ

私はこの小説を読んで自分の体の機能や部位を大切にしようと思い、最近サボりがちだった歯医者にすぐ行きました。スケールが小さい。

グレースの選択に見る人間性:自己犠牲と自己保身

最後に主人公のグレースは自分の命を顧みずにロッキーを救うことを選びました。

グレースはそもそもヘイルメアリーに望んで乗ったわけではなく強制的に乗せられたわけで、大変な思いをして地球を救う方法を見つけたわけです。
地球に帰ってヒーロー扱いされる、という旨みを味わうべき人だと思う。
グレースは自分でもそう思っているはず。

にも関わらず、異星人であるロッキーを救うことを選びました。
ヘイルメアリーに乗せられる時点では自分を犠牲にしようとはしていなかったのに。
それどころか見苦しく足掻いて(もちろん正常な人間らしい反応だとは思う)、嫌がっていました。

しかしストーリーの最後には自分を犠牲にし、一人の異星人(と結果的には多くの異星人)を救うことを選択します。

グレースは、ロッキーが今一人で絶望していることを想像していました。
逆にロッキーが諦めずに戦っている想像もしていた。
グレースには、ロッキーが追い込まれた時にどういう状態になるか、いくつか選択肢はあるが、分かった。

地球で生活していた頃のグレースにはあまり友達がいなかった様子。
たまに飲みに行くくらいの相手はいる…という程度だったので、おそらく親友と呼べる存在はいないのでしょう。長く付き合った彼女もいなかったようです。

相手が本当に追い詰められているとき、悲しくていなくなってしまいたいと思っているとき、そんな時にそれを打ち明けて側にいることが許される相手は、親友か彼女か親かだと思いますが、
グレースにはそういう存在がいなくて(失うことが怖くてそういう存在を作らなかった)、『大切な人が一人で絶望している様子』なんてリアルに想像できていなかったんじゃないでしょうか。

地球にも同僚や教え子たちという大切な存在はいたけれど、彼はその人たちの内側に入らせてもらえてなかったし、入れようともしていなかった。
でもロッキーとは、絶望の瞬間を一緒に乗り越えてきましたし、彼が仲間を失って悲しんでいたことも知っています。
ロッキーが大きな船の中で一人ポツンと絶望している姿は容易に想像できたはず。

それを想像できてしまったら、もう助けに行くしかなくないですか。

グレースの行動はとても勇敢だと思いますが、当然でもあると思いました。
だって考えてみてください。

ロッキーがどういう状況にあるか大体想像がつきながらも、それを誤魔化して「ロッキーはきっと生き延びてエリドに帰ったはず!」と考えて自分が生きることを選び、
その選択をした後に何年も宇宙船で一人きりなんですよ。

普通でも精神がおかしくなるような状況なのに、おかしくならないわけがないと思います。

さらに、地球に帰ったあとは英雄扱いです。
素晴らしい人間だと讃えられるんです。世界中から。

自分は唯一の親友である、ロッキーを見捨てたのに……そう考えてしまうでしょう。
でもそれを振り払って、なかったことにして、賞賛を受け、何不自由のない人生を送る。

そんな人生を楽しめるか?という話だと思うんです。そんな人生は悲しいと私は思います。
そのうちに生きていたくないと感じるようになるかもしれません。

でもそんな本当の自分を誰にも明かせずに抱えて生きていくことになるでしょう、だってもう親友のロッキーはいないから。

グレースの選択は自己犠牲ではない、と私は思います。自分の人生のための選択です。

自己犠牲よりもこっちの方が、もっともっと素晴らしいと私は思います。

プロジェクト・ヘイル・メアリーのテーマ:この小説が描いた「知りたい」という力

本作で描かれる友情は、ごく自然な形で「知りたい」「分かり合いたい」という動機から始まっています。
主人公グレースも、そして異星人ロッキーも、お互いを最初はまったく理解できない存在として出会います。
しかし、言語も価値観も常識も異なる中で、二人は“知りたい”という情熱を原動力に、お互いの世界や思考、文化、身体のしくみまで、あらゆる壁を一つずつ乗り越えていきます。

この「知的好奇心」による連帯は、単なる友情の描写とは一線を画しているなと思いました。

未知の宇宙、未知の生命体、未知の危機――
SFでは「未知」こそが最大のテーマとなりがちですが、本作は“未知を恐れる”のではなく、“未知に飛び込む楽しさ・ワクワク”を最大限に描き出しています。
恐ろしさよりも圧倒的に楽しさが勝つ作品です。

言語や物理法則、進化や文化など、あらゆる違いを受け入れ、むしろ「違いこそが面白い」と感じられる主人公たちの姿勢は、
現実世界での異文化理解や多様性の重要性にもつながっていくように思えます。

“知りたい”という本能的な感情こそが、人と人、そして人と異星人の間に架け橋をかける

このテーマの力強さが、本作の最大の魅力であり、SF小説としての新しい価値だと感じました。

読了後には、きっと自分の目の前の世界にも、まだまだ「知りたいこと」がたくさんあることに気づかされ、そしてちょっと優しい気持ちになれるはずです。

最後に

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』はSFですが、難解な科学用語や専門知識がなくても、ストーリーそのものの面白さで一気に読める作品です。

そのため、SF小説が苦手だと感じている人や、「宇宙ものは難しそう」と思っている人にもぜひ手に取ってほしいと思いますが、
ネタバレせずにおすすめするのは難しいですよね…
読み終わってここを見に来てくれた方々なら、私と同じようにその難しさに頭を悩ませているのではないでしょうか。

2026年には映画が公開されます。

予告編も小説を読んでから見ることをおすすめします

カゲノ

ロッキーがどういうふうに描かれるのか、本当にたのしみ!

SFをさらに楽しく読むための物理学を分かりやすく説明してくれます

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この記事を書いた人

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