『未解決事件は終わらせないといけないから』をやっとプレイできました!
Switch版でプレイしましたが、操作性が結構悪かったので、Steam版をおすすめします。
操作がスムーズにできることで、ストーリーに集中しやすいと思います。
内容は良かったです。
プレイ時間自体は短くサクッと終えられます。

……ただし、内容は重めで全然サクッとしてない。
私は真相に至るプロセスよりも、登場人物たちの言葉や行動に胸を打たれ、心がざわつく場面が多かったです。
本記事では、ゲームシステムや攻略要素には触れず、『未解決事件は終わらせないといけないから』の登場人物の言動や心情に注目した感想を中心にまとめています。
※本記事はネタバレを含みますので、クリア後の閲覧をおすすめします。


『未解決事件は終わらせないといけないから』とは(あらすじ・ゲーム概要)
『未解決事件は終わらせないといけないから』は、韓国のインディーゲーム開発者Somi氏が手がけた推理アドベンチャーゲームです。
2024年1月18日にPC(Steam)でリリースされ、同年9月19日にはNintendo Switch版も発売されました。Steamでは「圧倒的に好評(96%)」という高評価を獲得しています。
物語は、2012年に発生した少女・犀華(せいか)ちゃんの行方不明事件から12年後、元警察官の清崎蒼(きよさき あおい)のもとに若い女性警官が訪れ、未解決のまま終わった事件の再調査を依頼する……ところから始まります。
清崎は当時の記憶を辿りながら、事件の真相に迫っていきます。
本作は、証言や会話の断片を整理し、時系列や話者を特定していく「会話のパズル」が特徴です。
こちらの記事では、そういったゲームシステム等については触れません。
主に登場人物の言葉や行動についての考察……とも本来呼んではいけないような、感想を垂れ流します。
犯人にお礼を言う哲郎さんの心理
公正さんが連れて帰ってきた犀華ちゃんはお父さんに、「おばさんちに遊びに行って楽しかった」と伝えたそうで、「パパに会いたいと言ったら送ってくれた」とも言っていたようです。
公正さんが三日目に犀華ちゃんを連れてきて、哲郎さんは公正さんには何も聞かずにお礼を言った話をしてくれます。
「土下座しろと言われても…ええ、やったと思います。」とも語っていました。
犀華ちゃんが無事で帰ってきただけでそれでいいという気持ちで言ったことだそうですが、
想像して少し悲しい気持ちにもなってしまいました。
この、犯人にお礼を言う心理って、色々な要因が合わさったものだと思うんですよね。
奥様を亡くされているというのは大きい気がします。
これ以上家族に何かあるのは(例えそれが命が奪われるということでなくても)哲郎さん自身、耐えられないことであり
失う怖さを誰より分かっています。更に、翔太くんが苦しんでいる姿も見ている。
その地獄を、今度は娘でもう一度味わうと想像するだけで……どんな気持ちだったか。
無事でいてくれたらそれだけで良い、という気持ちを人一倍持っていると思います。
しかし、これだけじゃなくて。
もし相手が公正さんではなく、凶悪な犯罪者だったとしても、車椅子の哲郎さんは娘がそこにいる状態で、反抗的な態度を取れるでしょうか……
もし殴りつけたいような気持ちになったとしても、それをしてしまったら娘に何かされるかもしれず、そして哲郎さんは車椅子なので犯人にはきっと勝てません。
「ただ無事で帰ってきてくれてそれでよかった」と思ってお礼を言うのは母親的な心理だな、と思ったのですが
これは男が犯人だった場合の母親と同じように、哲郎さんが弱い立場だから、と言うのもあったんじゃないかなって。
もちろん犯人を前にそういうことを考えてから「ありがとうございます」と言ったわけではなく、哲郎さんは心から「よかった」という気持ちだったのだと思います。
でも、思考というのは癖づくもので、『自分が犯人を捕らえようとしたところで不可能であるからそもそもそんなことは頭にも浮かばない』ということもあるかなと。
私も女性としてその場にいたら、確実に負けるのでそもそもそんなことは考えもしない。
娘が帰ってきてくれたということに全力で喜ぶだろうと思う。それしかできないから。
でも自分が犯人に勝てそうだと思う体格ならどうだろう。
どうにかしなければと思う可能性もありますよね。
今までもきっとそういう風に生きてきて、そういった教育もされてきたと思うので。
哲郎さん「自首しましたか?」
哲郎さんは公正さんと会って、何かを感じたのでしょうか。
それとも犀華ちゃんから話を聞いて、悪い人じゃないと思ったのでしょうか。
哲郎さんの人柄がこの言葉に出ている気がします。
娘を誘拐した憎むべき相手にも関わらず、なんとなく哲郎さんは公正さんと、犀華ちゃんの言う「おばさん」に対して
同情しているような、共感しているような、そんな気持ちを持っていたんじゃないでしょうか。



辛い体験をした方なので、他人の苦しみへの想像力もとてもあるんだろうなと思います。
翔太くんがいつも傘を持っている理由と心理
なぜ傘を持っているかというと、亡くなった奥様が「先に天国に行って翔太と犀華を守ってあげる」という話で、
「これからは雨の日にママがお迎えに行けなくなるから、翔ちゃんが傘を持っていくのを忘れちゃった日は、雨を降らせないでくださいってお願いするからね。いいでしょ?」という約束をしていたそう。
これが翔太くんがいつも傘を持っている理由として語られるのですが、一瞬「うん、で、なんで?」となりましたが
翔太くんの考え方を知るにつれて、ああ、この子はママを嘘つきにしたくないんだな…と思いました。
それだけじゃないかもしれない。
嘘つきにしたくないだけじゃなくて、翔太くんは心の奥底では「ママが天国から見守っていてくれている」と思いたくて、それを心の拠り所にしてるんじゃないかなとも思いました。
天国なんか無いしそんなのは嘘だ、と言いながら思いながらも、
それが確定してしまうことが怖いというか……
傘を忘れた時に雨が降ってしまったら、天国なんかなくてママは守ってくれていないということが確定してしまう
それが怖かったんじゃないかな。



そう考えると、死んだ後の具体的な約束をするのって子供にとって酷なことなのかもしれませんね…
公正さんの献身的な愛と罪悪感
公正さんは理佐子さんを庇うために自首をしました。
それまで彼は、理佐子さんに養育費を送り続けていました。理佐子さんにとっては養育費でしたが、公正さんにとっては理佐子さんの支援のためです。
「養育費が送れない」と公正さんに言われた理佐子さんは、公正さんを責めました。きっとそれまでにも(養育費のことだけじゃなく)そうやって公正さんを責めることがあったはずです。
それでも公正さんは養育費を送り続けます。
離婚の理由は二人の間に愛がなくなったわけではなく、犀華ちゃんを亡くしてから二人でいるのがただ辛かったからで
公正さんは理佐子さんのことを気にかけ続けていたし、それに離婚をしてもお互い傷が癒えることはもちろんなく、公正さんは過去の離婚という選択は間違っていたのかもしれないと思っている節が言葉から見受けられます。
公正さんは離婚をしてから“色々あって”中学教師を辞めて、塾の講師や家庭教師を始めたと言っていましたが、
これって理佐子さんがこれまでより更に精神的に病んでしまって、そのサポートをしていたからでしょうか。
犀華ちゃんが亡くなってから色々あって辞めた、という理由なら、子供が生まれる話を職場でしていたために、同じ職場にいるのが気まずくなり辛くなったことが原因かなと思ったのですが
離婚をしてから”色々あった”んですよね。
公正さんは離婚をしてからの理佐子さんの病状に詳しいようですし、離婚してからも本人をサポートしたり義母から話を聞いたりしてたんですかね。
公正さん側からしたら、一緒に暮らさなくなっただけで、ずっと大切に想っていたんだろうなと思います。



別れてから病状が悪化しているので罪悪感ももちろんあるでしょうが、何も思っていない相手にそこまで深い罪悪感は抱けないし、それだけじゃここまで出来ないよな……
おばあちゃんの悲痛な愛と苦悩
おばあちゃんのこれまでの苦労や心配や辛さを想像するのが一番キツかったですね……
プレイ中に私が一番疑っていたのがおばあちゃんで、犯人絡みではなかったとしても、良い人ではないと思っていたし。
真相を知った時、その反動もあってとっても悲しかったです。
おばあちゃんは孫娘も亡くしており、更には娘も、『本来の精神的に健康な娘』という意味では失っています。
理佐子さんは真エンドで、事件が終わってもまだずっと苦しみ続けていたことがわかります。
ということは、おばあちゃんはそれをずっと支え続けたということ。ご存命かどうかは話の中に出てきませんでしたが、死ぬまでずっと娘を支え続ける人生だったと言ってもいいでしょう。
自分のせいで公正さんが自首したと思って、娘のことを通報し、その結果、娘は刑に服しています。
いや辛すぎるやろ……
『未解決事件は終わらせないといけないから』というタイトル
このゲームを知った時は「未解決事件”を”終わらせないといけないから」だと思ったんですが「未解決事件”は”終わらせないといけないから」なんですよね。
プレイ前はこのタイトルに違和感があったのですが、
プレイしたら分かった。”は”の意味が。
意味が分かるというか、このストーリーの内容なら、”は”の方が相応しいというかタイトルとして綺麗だなって。
タイトルがハッシュタグで出てきて、それを終わらせる作業がこのゲームの最後の操作ですが、
正直このゲームで一番良かったのはここでした。
私がハッシュタグに取り消し線を引いたタイミングが、未解決事件が終わったタイミングなわけです。
理佐子さんが逮捕されたタイミングではなく、理佐子さんに真実を伝えたタイミング。
このタイトルは単に事件の真相を暴き犯人を逮捕する、という意味だけでなく、「事件に巻き込まれた人たちが心に抱える痛みや罪悪感、過去のわだかまりを終わらせて、前に進むこと」を現しているように思えました。
まとめ
このゲームの中の人々は完全に救われることはありません。
それでも、大きな悲しみを経験してもなお、誰かを思いやることのできる心の強さと愛情の深さに、胸を打たれました。
この作品を通して、「誰もが抱えている傷を完全に消すことはできないけれど、それを抱えながらも生きていくことが大切だ」と改めて感じました。
未解決事件は終わらせなければいけない。
それは事件そのものだけでなく、心に抱えた傷や後悔も同じことなのかもしれません。
消えることがなくても、一旦終わらせないといけない。